53人が本棚に入れています
本棚に追加
「桜にだったら、何度でも、教えるよ」
「っ」
「俺は、――……鬼子と人間が憎みあわなくていい、そんな世の中を創りたいんだ」
無謀にも思えるその願い。
それを実現しようと、藻掻く桃は、やっぱりとても強くて――……美しい。
「桜、前にさ、俺が17の時、鬼ヶ島に薬草採りに行ったって、言ったよね」
「……ああ」
「……あれ、鬼子の身体に合った薬を作りたくて、こっそり行ったんだ。あの時はまだ、戦闘部隊だったし、結局バレて、任務に挿げ替えられちゃった」
その言葉に、初めて出逢った時の桃の洞窟が目に浮かぶ。道理で、あの場所は任務らしくない訳だ。任務ならもっとちゃんとした設備のある場所に泊まるはずだ。桃は、鬼殺しとして来ていた訳じゃなかったのだ。
だから、あの時、薬箱を持っていたのか。
だから、鬼子に逢いたいと、話してみたいと――……。
苦くて甘い感情が、口内を満たす。如何していいか分からなくて、ただじっとしていた。
「……苦しかったな、自分が戦闘部隊って事が。助けたいのに、助けられなくて」
それは、お兄の事を言っているのだろうか。
そう思ったら、胸が痛くて痛くて、仕方なかった。
最初のコメントを投稿しよう!