如何して憎み合っているのか、知りませんでした

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「……桜?」 桃が、黙り込んだ私の腕を掴んで、自分の頭から、そっと引き剥がす。そのまま、顔を上げて、私の瞳を覗き込む。漆黒の双眸に、橙色の光が、揺れる。私の心を、映し取る。 じっと、見つめ合う。 桃の漆黒が、ジワリと歪んで、輝く。 桃、――……好きだよ、好きだ。 ――……好きなんだ、 許されなくても、如何しても。 「桃……私、桃の事が、」 溢れる。零れる。止まらない。 震える声が、唇を越えて転がり落ちる。 「……好き」 胸に灯ったその熱に、名前を付けた途端に、感情が、睫毛を越えて溢れ出す。ぱた、と落下した透明な雫に、咄嗟に目を伏せた。 歪んだ世界の向こう側で、桃は困った様に、眉を下げていた。 精一杯、目を見開いた。これ以上、零したくなかった。桃を困らせたくなかった。 じっと、沈黙が落ちる。ゆらゆらと揺れる橙色の光だけが、私達を照らし続ける。 「……ごめ、桃……」 駄目だった。我慢できずに溢れた涙が、一粒、ぱたりと膝の上で握りしめているこぶしに落ちた。 「桜」 「……っ」
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