53人が本棚に入れています
本棚に追加
「……桜?」
桃が、黙り込んだ私の腕を掴んで、自分の頭から、そっと引き剥がす。そのまま、顔を上げて、私の瞳を覗き込む。漆黒の双眸に、橙色の光が、揺れる。私の心を、映し取る。
じっと、見つめ合う。
桃の漆黒が、ジワリと歪んで、輝く。
桃、――……好きだよ、好きだ。
――……好きなんだ、
許されなくても、如何しても。
「桃……私、桃の事が、」
溢れる。零れる。止まらない。
震える声が、唇を越えて転がり落ちる。
「……好き」
胸に灯ったその熱に、名前を付けた途端に、感情が、睫毛を越えて溢れ出す。ぱた、と落下した透明な雫に、咄嗟に目を伏せた。
歪んだ世界の向こう側で、桃は困った様に、眉を下げていた。
精一杯、目を見開いた。これ以上、零したくなかった。桃を困らせたくなかった。
じっと、沈黙が落ちる。ゆらゆらと揺れる橙色の光だけが、私達を照らし続ける。
「……ごめ、桃……」
駄目だった。我慢できずに溢れた涙が、一粒、ぱたりと膝の上で握りしめているこぶしに落ちた。
「桜」
「……っ」
最初のコメントを投稿しよう!