53人が本棚に入れています
本棚に追加
名前を呼ばれるだけで、身体がビクンと震えた。臆病すぎる自分に、唇をぎゅっと噛み締めた。数秒前の自分の言葉を後悔し始めた、時。
「……こっち、向いて」
その声に、俯いていた顔を、そっと上げた。
刹那、漆黒に囚われた。
火花が、散った。
は、と感情を融かした吐息が零れて、
――……そのまま、桃に飲み込まれた。
唇が、重なった。
そう気が付いたのは、柔らかな熱が、私の涙に濡れた唇を包み込んでからだった。
「……、」
何度も、何度も、角度を変えて重なる唇。
小さな水音が、部屋に響く。
壊れそうに脈打つ心臓。
震える吐息に、優しい熱。
耐え切れなくて、ぎゅう、と桃の着物を握り締めた。
「――……」
刹那、桃の両の手のひらが、私の頬にそっと触れる。その指は、柔らかく、顎を支える。
その間も、私を包み込む唇は、やっぱり、何処までも優しくて。
「――……っ」
桃のくれる優しさに、涙が、止まらない。頬を伝って、ぱた、と落下していく。私に添えらえている桃の指先を濡らす。
最初のコメントを投稿しよう!