如何して憎み合っているのか、知りませんでした

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優しさを与える桃の唇は、始まりと同じく唐突に離れた。乱れた息を誤魔化す様に、そっと浅い呼吸を繰り返す。着物の上から心臓に手を当てて、押さえる。震えそうになる身体に、必死で力を込めた。 「……桜」 名を呼ばれる。じっと、その漆黒の双眸を見つめる。私の偽物の漆黒を、絡め捕られる。桃は何故だか、一瞬だけ痛そうな顔をして、そして、私の視界をそのあたたかな手のひらで奪う。 「……桃?」 「……今から俺が言う事に了承できたら、頷いて」 「え、」 話そうとすれば、そっと唇に指が当たる。ふに、と柔らかく桃の指が私の唇に沈んで、思わずごくりと喉が鳴った。 「初めて逢った日、俺は、君の優しさに触れた。ただの純粋な、真っ新な、優しさをくれた君に、興味を持った。その後も、何度も何度も、君は俺に、優しさをくれた」 どくん、どくん。心臓が、鳴る。 世界がきゅう、と歪んでいく。 「そして、……ただ普通通りに振る舞っているつもりだった俺の奥深くに隠れてる、泣き出しそうな俺を、君は見つけた」 一生懸命隠してたんだけどなぁ、と桃は笑う。 その声に、また涙が溢れ出しそうになる。
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