53人が本棚に入れています
本棚に追加
「だからもう、忘れられる訳もないし、隠せる訳も無いんだよね」
だって、隠したって、きっと溢れちゃうし、たぶん見つかっちゃうから。そう言って桃は、すぅ、と小さく息を吸って、その柔らかな音を、私に届ける。
「俺も…………桜、の事が、好きだよ」
いつも通りの声で落とされたその言葉に、息が、止まった。
「……今、何て、」
「……だから、」
視界が遮られている所為で、桃の表情が見えない。何も出来ない私は、ただ、ぎゅっと手を握って、胸に当てる。
「――……俺と一緒に、生きて欲しい」
「……っ」
夢かと、思った。
身体が震えて、何も言葉が出て来なかった。
ただ、感情だけが、ぼろりと目じりから転がり落ちる。桃の手のひらにぶつかって、溜まっていく。何度も何度も、口で呼吸をする。
「桜?」
「………ちょ、ま、待って」
今、その手をどけられたら、私の涙でぐちゃぐちゃな顔が見えてしまう。そう思った私は、桃の手のひらが離れていくと同時に、ぱっと自分の手のひらで顔を覆う。
「ちょっと、今、顔が酷くて、」
「…………」
「ちゃんと、……ちゃんと涙が止まったら、返事するから――……だから、ちょっと待っ――……っ」
最初のコメントを投稿しよう!