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「楽しい事ないかなー」
「じゃあ、どっちが石を積み重ねられるか競争しよう」
3人が帰り、草むしりが終わっていた私は、家にいても手伝いをさせられるだけなので、お兄を誘ってこっそり抜け出した。そして、桜が舞い散る裏山で、お兄と一緒に時間を潰す。私たちが動く度に、足元に触れている草花がさわさわと衣擦れのように柔らかく鳴る。
「えー、何その地味な遊び!」
「そんなこと言うなよー」
ざぁ、と優しい春風が、桜の花びらを舞い上げる。透明な風に色が付く。それを見たお兄は、琥珀色のくせっ毛を揺らして、腕を目一杯伸ばし、何かをキャッチした。
「ほら」
「わぁ」
柔らかく握られたこぶしの中には、桜の花びらが1、2、3枚。
「一回で何枚取れるか競争するっていうのはどう?」
二重の瞳を三日月型に緩めて、にやりと笑ったお兄に、にやりと同じ笑みを返した。それを皮切りにして、私たちは風が吹くたびにジャンプを繰り返す。
「3枚だった!」
「俺、4枚!」
「何で! お兄ずるい!」
「何でも~」
何度も何度もジャンプ、ジャンプ、ジャンプ。
着物の裾が捲まくれたって、襟の合わせが乱れたって、構わず息が続く限り跳び続けた。本当にくだらないし、特に意味もないけれど、私たち兄妹にとって、とても優しい、あたたかな日常。
お兄がいなくなったら、こんな事も出来なくなる。そう思ってはみても、決して実感を伴ってはいなかった。
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