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昔の人なら意外に思うかもしれないが、絶えず雨が降っていても、今の時代、さほど傘を必要としない。
なぜなら、大概、歩道には屋根がついていたり、トンネル化していたりするからだ。
僕の家も出た所にすぐ屋根付きの歩道があり、いつものようにそこを歩いて、少し離れた巡回船の停船所へと向かう。
道路のように張り巡らされた……否。昔は実際に道路だったものを水路に変え、それを使って市内をぐるりと回っている定期船だ。
かつては自動車や電車が交通の主役だったみたいだが、こうも道より川の方が多くなると、俄然、船を多用する社会となっている。
「あ、おはよう」
「ああ、おはよう」
相変わらずじめじめとした停船所で少し待ち、定刻通りに来た巡回船に乗り込むと、これもまた毎朝のことだが、クラスメイトの女の子と会った。
「なんか蒸し蒸しするね」
「ああ、もう夏だからね」
雨風に晒されないよう、巡回船の乗客スペースは閉鎖式の仕様なのだが、通勤通学時間はやはりぎゅうぎゅう詰めになってしまうので、中は湿気と人いきれで気持ちの悪い蒸し暑さである。
太陽は雨雲に隠れて見えなくとも、やはり夏になるとそれなりに温度が上がるのだ。
「ねえ、修学旅行で行きたいとこ考えてきた?」
「うーん。一応考えたけど決めかねてて。東京なんてどんなとこかぜんぜん知らないからね」
そのまま、おしゃべりに突入する彼女に合わせ、窓際に移動した僕もその問いかけに言葉を返す。
「そっかあ……あたし、東京●ィズニーランド行きたかったんだけど、あれって東京じゃなく千葉だったんだね」
「ああ、そうらしいね。なんかのテレビ番組でも言ってたよ」
そんなとりとめのない話を彼女と交わしながら、雨水の伝うガラス窓越しに川沿いの景色をぼんやりと眺める。
そういえば、そんな加工が施されているのか? ガラス窓は湿気で曇りもしてないし、雨水も弾いているので見慣れた外の景色が問題なくよく見える。
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