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僕らを乗せた潜水艇は一列になって、かつては大通りだった細長い空間を、ゆっくりと速度を合わせて進んでゆく……。
ある日、突然うち捨てられ、そのまま水没したかのように、そのままの姿を留めている都会的なコンクリートの街並み。
ライトの光に照らし出され、時折キラキラと光る魚達は、あたかも街の空を飛び回る鳥の群れにさえ思えてくる。
……だが、やはり長年、海の底に沈んでいただけのことはあって、よく見れば建物の壁面にはフジツボやら貝やらがびっしりと蔓延り、ガラス窓はことごとく割れて、いまやその魚達の住処となっている。
やはり、もはやここは僕ら人間の暮らす世界ではないのだ。
そうして廃墟と化した旧首都の風景を眺めながら海中の道を進んで行くと、だんだんに一本の白い大木のような塔が近づいてくる……あの高さは間違いない。かつて東京スカイツリーと呼ばれていたものだ。
きっと表面は貝や海藻で汚れているのだろうが、遠くからならまだ充分白く見える。
さすが世界一高い電波塔だっただけのことはあり、今でも水没しているのは全体の半分以下、その天辺ははるか雲の上ならぬ海面の上だ。
昔は展望を楽しむために下から上へ登ったようだが、今なら逆に海上からこの海中世界へ降りるための通路としても使えそうだ。
いや、冗談ではなく、そんなアイデアを持っている専門家も実際にいる。
このスカイツリーだけでなく、これほど堅牢な建物群を魚の住処にしておくのももったいないので、旧都心部一帯を超巨大なドームで覆い、水中都市として再開発しようという計画も構想されていたりするのである。
逆にそんな水中都市ならば天候は関係ないので、今の地上では手に入れることの難しい、常に晴れた世界での暮らしというのも送ることは不可能ではない。
この海中に没した過去の街並みが、再び人々の声で溢れ返り、かつて地上に存在したような活気ある空間へと生まれ変わる……。
なおもクラスメイト達の声がガラス壁に木霊する中、眼前に高々とそびえ立つ、白亜のバベルの塔を期待とともに見上げながら、僕はそんな未来の東京を独り密かに夢想していた。
(本日も雨天なり 了)
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