1輪の、花束

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1輪の、花束

今日で、七日連続。 『すいませーん!宅配便でーす』 帽子を少し上げて話すお兄さんに会うのも、7回目だ。 いったい私は、 何をしてしまったというのだろうか。 花瓶に刺さったソレは、今日も真っ赤に輝いている。 誰が送ってきてくれているのだろうか。 私には、 その名前を、 思い出すことが できない。 宅配便のお兄さんの顔も、 どこかで見たことがあるような気がするのに、 思い出せない。 ぐるぐると回る思考。 考え出すとキリがなくて、思わずソファーに沈む。 目を閉じると、 どこかで見たことのあるような光景が、 浮かんでくる。 花畑で手を差し伸べている、 一人の青年。 一瞬だけ見えたその表情は、 キラキラと輝いていて。 目を開けると、 何事もなかったかのように掻き消える。 「弓川さん? どうかされました?」 隣を見上げると、白衣を着た20代後半ほどの女性が、彼女を不思議そうに眺めていた。 「あ、 いいえ。 何でもありません。」 「ならいいんですが… そうそう! 今日も来られてましたよ、あの男性」 「そうなんですか?」 フッと顔をあげると、 看護婦さんは、柔らかく目を細める。 「一体、どなたなんでしょうね? ただ病室の前に立って、しばらくするといなくなって。 いつも真っ白な服装で。」 そっと、ドアを閉める。 今日も彼女は、 私を忘れてしまっているようだ。 「先生、 急患です!!」 「わかった、 すぐに行く」
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