3分の、2

1/1

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

3分の、2

夕方6:00。 今日も最終下校時刻ぎりぎりまで学校に残っているのには、れっきとした理由があった。 「で、答えは、3分の2!!」 「………正解!」 「やった―――!!!」 ギャルってわけでもない。 部活にのめりこんでるわけでもない。 私は、 数学が、 嫌いだ。 でも、ほかの教科の成績は申し分ない。 なんなら、国語は毎回学年1位で、目の前にいる総合1位の彼よりも点数は高い。 「やればできんじゃん! 私ってばすごい!! どんどん万能になっちゃう~」 「んじゃ、 今度は長距離走の特訓でもしてやろうか?」 「っ、ごめんなさい、ゴメンナサイ、ごめんなさいぃ~!!もう二度とそんなこと言わないから!ね!?」 目の前にいる彼、城野君は、運動も勉強も得意な、文武両道を具現化したような人間なのである。 根っからの運動音痴な私には、夢のまた夢の話だ。 万能になるなんて。 イケメンで、 何でもできて、 優しい彼と、 こうして話せるなんて。 私には、友達と呼べるようなクラスメイトも、校外学習の班に誘ってくれるような子もいない。 それでも。こんな彼と、5日間勉強できて。 そのうえ、雑談までできるようになった。 だけど。 それも今日で終わり。 明日からはきっと、 普通のクラスメイトに戻る。 「今日まで、 ありがとうね。」 城野君は、ゆっくりと瞬きをする。 あ、これは、戸惑ってる顔。 「……数字、 少しは好きになった?」 開け放たれた窓から、爽やかな初夏が入ってくる。 陸上部の掛け声。 少し湿りが残る、夏の薫り。 暑さを交えた風が、 猫っ毛を揺らしていく。 「………うん、 好き、だよ」 あなたのことも。 あなたの好きな数字も。 あなたが好きな長距離も。 「3分の、2、くらいね」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加