残り香

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残り香

暗闇に揺らめく、背の高い影。 「お嬢さん、そんなんじゃ、一生俺のことなんて、捕まえられないよ?」 月光に照らされるのは、私の因縁の相手。 彼を捕まえられたら、私は1等警護官になれるのに。 「マドモアゼル。どうしたんだい?」 屋根から少し身を乗り出して、窓辺に近づいてくる。 そう、そのまま。 そのままで。 なんだか、少し寂しい気がするわね。 あなたとの追いかけっこなんて、こりごりなのに。 ぐっ、と彼を見つめる。  「・・・っ!?」 突然、彼が部屋に飛び込んでくる。 へっ!? どういうこと?  自分から、捕まえられに来たって言うの…? 不意に、足が空をきった。 私は、 誰かに抱えられて 空を飛んでいた。 「エヴァさん、良かったですね。 アイツに何かされませんでしたか?」 近くに聞こえる同僚の声も、耳に入らない。 私の目に映っていたのは、 彼一人だけだから。 赤い。 視界が、 真っ赤だ。 暗い中でもわかる。  彼のすべてには、色が見えたから。 「ね?言ったとおりでしょ?  キミには僕が必要だったし、 僕には君が必要だった。」 「自慢げに言わないでよ。 大体、あなたが助かったのだって、 私のおかげでしょ?」 微かに薫る、ユズ。 あの日と、同じ香り。 「珍しいわね。あなたがこの花を身に着けるなんて。」 「今日は特別な日、だろ?」 ふっと微笑む彼につられて、口角が上がる。 私の胸元にあるのは、青いバラ。 「リン、もう寝よっか。」 「どうしてぇ?」 「パパとママの邪魔しちゃいけないでしょ?」
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