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『 ー…えーしたがって今年度においても…』
長い長い校長による話を俺たちはめちゃくちゃ暑いこの体育館で聞かされている。
なんで金持ち校なくせに体育館には空調の設備ねーんだよ。
パタパタとたいして風も入ってこないが襟元を引っ張り微量な風を服の中に送っていく。
周りのみんなも同じようにじっと暑さを耐えていた。
夏休みが近づくとあっという間に一日が終わり今日は終業式を迎えている。
『 失礼とは存じますが校長、些かお話が重複しているように感じます
そろそろ我々に登壇させて頂けないでしょうか』
校長の話に被せるかのように割って入ったのは生徒会長だった。
相変わらずヤンキー丸出しだな。
会長は校長の話を遮り登壇し、マイクを持ち前の方に出た。
ラップでも始めそうな勢いだな。
『 いいかお前ら。
お前らはこの私立東条学園男子高校の生徒である自覚を持て。
この学校に恥じない行いを心がけろ
まあ精々貴重な長期休み、楽しむことだな
俺からは以上だ。解散』
たまにはいい仕事すんじゃん会長。
やっと帰れると出入口に向かおうとするとひとつ言い忘れてたと。
『1年、 東雲。お前は残れ』
とんでもねー爆弾落としやがったなあいつ。
俺は殺意と共にその場で足を止めた。
悠斗には悪いがどこか涼しい所で待っててと伝え、仕方なしに会長の元へ歩み寄った。
だいたいの生徒が外に出ると会長は口を開いた。
「…お前、夏休みのどこかあけとけ」
「やだね、以上、解散」
「待て待て待て!俺は凛に頼まれて仕方なくお前を誘ってるんだ!」
「その凛とか言うやつに伝えといて
俺にはお前の遊び付き合う義務はない、遊びたきゃお前の金魚のフン共と遊べって
さいなら」
後ろでなにかギャンギャン騒ぐ会長を置いて俺はやっと暑い体育館から開放された。
暑い暑いとブレザーと朝悠斗に結んでもらったネクタイを緩め、悠斗に電話をかける。
「ごめん、今どこ?」
『 ココ』
え?と思い振り向くと悠斗が冷たい缶を俺の頬に当てた。
どうやら飲み物を買って戻ってきてくれていたらしい。
悠斗は優しい。良い奴だ。
俺はありがとうとその缶を受け取り乾ききっていた喉を潤す。
生き返る。なんでこんな暑いんだよ夏は。
「そーいや快くんや」
「なんだい悠斗くん」
悠斗は後ろ手に何か持っていて何持ってんの?と聞くと前に図書館で借りた過去問集を見せてきた。
「返すの忘れてた」
「怒られる?」
「怒られないけど今の明るい時間に行くと機嫌悪いかも」
お前らまだ残ってんのかという声が掛けられ振り返ると大智くんがいた
悠斗はあ、そうだと大智くんにはいと本を渡す。
「なんだこれ?」
「過去問」
「これをなんで俺に?」
「返しといて、じゃあ俺ら帰るから」
悠斗はそう言い残すと俺の手を掴み走って大智くんから逃げた。
後ろから怒号が聞こえるがお構い無しに俺たちは寮まで走った。
こんなに走ったのはいつぶりだろうか。
ヘトヘトになりながら部屋に入り2人してソファに倒れ込んだ。
「はあ…はあ…死ぬでほんと」
「クソあちいな全く…」
暑い暑いと2人してブレザーとネクタイを脱ぎ捨てた。
あー…
やっと夏休みが来る。
待ちに待った夏休み。俺が1番生き生きする季節に入った。
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