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ばしゃばしゃと、誰かが走る音が聞こえた。
近付いて来る。
雨宿りにここへ来るかもしれない。
あわてて涙を拭う。
「――見ィっけ」
ため息と一緒の言葉に、気持ちが硬くなった。
何でこいつが。
うつむいたまま無視していると、断りも遠慮も無く隣に座る。
「探したぜー?こんな遠い所まで来させやがって」
「……なんで」
顔を会わせれば言い合いが始まる相手。
こんな、泣き顔なんか、絶対見られたくないのに。
今はしゃべる元気もわかないのに。
「何で? はッ! あいつじゃなくて悪かったな」
「……何も言ってない」
「あの野郎は、お前泣かしたからって、今頃ダチにぶん殴られてるよ」
殴られてる?
驚いてそっちを向いた瞬間、ばさっと頭から何かをかけられた。
「?!」
更にびっくりしてもがくうち、厚みのある生地からよく知ったにおいがして、へなへなと力が抜けた。
「あいつのコートだ。寒いだろうから……って分かりやすい奴だなお前は」
何か悪いか。
好きな人の服にくるまってデレてるだけだ。
ちょっとベンチの上で悶えたって、誰も居ないんだから大丈夫だ。
ため息つかれても知らない。
「あーあ。やっぱりバカみた。帰るぞ」
「嫌だ。脱ぎたくない」
「バカか」
「雨が止むまで」
「はあ。天気予報が確かなら、明日の朝まで雨ですが?それまでここは2人きりですが?」
「それは嫌だ。帰る」
思い切りバカを見る顔をされた。
「ハイハイ。どうせあいつも拗ねて落ち込んでんだ。さっさと慰めに行けよ」
慰めに。
意外な言葉に、浮かれていた気持ちがどこかへ行った。
「……怒ってないの?」
「無い」
「帰っていい?」
「そのために来た」
「嫌いに……なってない?」
「知らねえよ! お前らどこまで似た者同士だ!」
ぐいと手を引かれ、あずまやから連れ出される。
傘を叩く雨音がすごい。
あっという間にコートの肩が濡れた。何で。
「……傘、1つ?」
「うるせー忘れたんだよ。後で風呂であいつとゆっくりイチャイチャすれば?」
早足に進む背中を追いかけて、笑ってしまった。
前に家出したときも、振られて屋上に立てこもったときも、何だかんだで連れ戻しに来るのはこの幼馴染だった。
さんざん言い合いをして、疲れてどうでも良くなって帰る。
こんなパターンは、たぶん初めて。
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