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カランカラン・・・・
店のドアベルが来客を伝える。春の風と共に今日も彼女が訪れる。小さな店内を見てまわる彼女を気にかけていると母ちゃんがにやけ顔で小突いてくる。
「顔が赤いよ?杏一」
隣で茎をハサミで切りながら笑っている母ちゃん。あの頃より元気になって良かった。俺は誤魔化すように店に陳列する花の状態を見てまわる。この季節は出会いと別れの季節で花屋は大忙し。
彼女は決まって閉店間際に来店する。忙しさのピークを越えて落ち着いた頃に現れる彼女を優しく気遣いできる素敵な女性だと思っている。
◇◇◇
「おばさ~ん。手伝いに来たよぉ!!」
家族経営しているフラワーショップ由利に、明るい声が響く。パッチリ二重の瞳は大きく、鼻筋が通ってぷっくり分厚い唇で小顔の人物は母ちゃんから店のエプロンを受け取ると、足音軽やかに幼馴染は近づいてくる。花の髪留めでまとめたツインテールに、フリフリのついたピンクのワンピースの上にエプロンを付けた幼馴染は甘え上手と言うか、近寄り上手な場面を発揮する。
「杏一くん~結んで♡」
語尾にハートマークがつきそうなあまあましい声を近くで放つ。クスクス笑う母ちゃんと近所の人たち。顔を両手で包んで小首を傾げて上目遣い。ぶりっ子キャラは大人になった今でも現在進行中。
「エプロンぐらい結べるだろ!!」
「もう♡杏一くん。照れ屋さんなんだから」
選定し終えた花々を纏めつつ店内の方を振り返る。和やかな空気が流れていて近所のおばちゃん、おじちゃんからはいつもの茶化しが始まる。
「二人とも二十歳になったんだろ。そろそろ結婚か!!」
「おめでとう。月ちゃん、杏一くん」
いやいやと茶化しまくる近所のおばちゃんたちに向け、笑顔を振りまくが・・・
「な、なんなんだ・・・・」
「睨みつけないでくれないかな?杏一くん」
見た目がおっかないと噂されていたのは思春期の頃だけで、あの件があって以来真面目に働こうと思っているが、眉なしで、一重の目力で客をビビらせるのは毎日の恒例となっている。爽やかな髪型に変えても脱色し黒髪に戻してもあの頃を知る客からは、おっかない存在なのは変わりない。
「やだぁ~杏一くん。お客さんが怖がってるじゃない!!全然笑えてないよぉ」
るなが、愛想よくツッコミを入れると冷えていた空気がガラッと変わる。ガン飛ばしているわけじゃないけど、睨んでいるようだと言われたのは今日が初めてではない。なるべく会話を避けつつ接客を試みている最中だ。
「ありがとな、佐々木」
ぺこりと頭を下げて礼を言うと、ふくれっ面の幼馴染が近づいて抗議する。鼻と鼻とが触れ合う距離感。近くねぇかと心の中の俺が叫ぶ。
「るなって呼んでって言ったよね!!るなたちは結ばれる運命なんだから」
両手を組んで身体をもじもじさせる幼馴染をスルー。俺らの様子を見ていた母ちゃんが会話に入ってくる。母ちゃんは、るなと俺との仲を縮ませたいほうらしい。心強い味方が側にいるるなはもう、家族同然の付き合いになる。俺は恋愛対象として見たことは一度もないが・・・
「ごめんねぇ。鈍感だからさ~杏一は。おばちゃんは応援してるからね!!」
そんないつもの会話をしていると、小声で訊ねてくる声が聞こえてくる。
「あの~す・・・すみません」
彼女の消え入りそうな声を聞きとった俺はレジ方面を振り向く、見ると端っこで躊躇いながらこちらを伺っている彼女の姿が。
作業スペースから小走りでレジの方へと向かって行く俺。レジカウンターを挟み見つめ合う。彼女は消え入りそうなほど小さな声で訊ねてくる。
「赤いチューリップの花言葉はなんでしょう?」
彼女は毎日一輪だけ買って帰っていく。今週は赤色のチューリップ。花言葉は確か・・・
「赤色の花言葉は、真実の愛・愛の告白ですね」
俺がいつも通り花言葉を教えると彼女は微笑んだままこちらを見ている。
「どなたにあげるんでしょうか?毎日花を貰われる方は幸せですね」
母ちゃんのさりげない質問に心の中でガッツポーズする俺。ナイスアシスト!!
彼女はうっとりしながら、チューリップを見つめ目を閉じながら話してくれる。
「ずっとずっと想い続けている人なんです。この愛が伝わっているかわからないけれど・・」
「伝わってる!!伝わってます。あ、あの・・・お名前教えてもらってもいいですか?」
心臓はうるさいし、るなは不貞腐れている。気に入らないご様子。
震える両手でメモ帳を差し出す、彼女は頷いてスラスラと黒いボールペンで名前を書いていく。
【東海林蓮花】
フルネームを書いてくれた東海林さんに感謝して、会計を済ませ出て行く東海林さんを見えなくなるまで店の外で見送る。後ろから突き刺さる言葉は無視して。
「あたしに聞けばすぐなのに、馬鹿だねあんたは」
「るなも同じこと思ったよ。おばさん、叶うはずないのにねぇ」
後ろ姿もまた可愛らしい、お嬢様ヘアーの髪が風でなびいている。フェミニンなワンピースがよく似合う東海林さんはカツカツとパンプスを鳴らしながら離れていく、途中で振り返って笑ってくれる東海林さんに向かって声を上げ、はにかんでいた。
「い、いつもありがとうございます!!明日も待ってます」
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