出逢いは雨音のなかで

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あ、雨だ。 ベッドに寝転んだまま、夢うつつのなかでそう判断し、思わずため息が洩れた。 朝起きて最初にすることは人それぞれだろうけれど、私の場合は天気の確認から始まる。 カーテン越しに注ぐ日の光でああこれは確実だ、と思う日もあれば、曇り空の日は、耳を澄ませないとわからない。 それでも判断がつかない日は、諦めて早々にベッドから抜け出して、カーテンを開け放ち窓の外を確認する。 今日は、しんとした部屋のなか確かめるまでもなく、しとしとと雨の降り注ぐ音が聞こえてきていた。 ああ梅雨入りしたんだったな、と昨夜のお天気ニュースを思い返す。 日本に暮らしている以上仕方ないことだけれど、この時期は困ったものだ。 枕元の携帯がけたたましいアラームを奏でる前に起き上がると、のろのろと身支度を開始した。 シンプルなシャツに黒いパンツ。そのまま仕事に出掛けられるスタイルだ。 私の実家は、カフェを営んでいる。 五年ほど前、勤めていたホテルを早期退職した父がはじめた純喫茶だ。 それまで華やかなレストランで豪華なデザートを作っていた父は、どうしても小さな自分だけの城を持ちたかったらしい。家から徒歩3分の場所にお店を借りると、瞬く間にこの『喫茶木枯らし』をオープンさせてしまった。 私はパティシエの父の背中を見て育ったせいか、物心ついた頃から自分もケーキ屋さんになると疑っていなかった。高校卒業後、製菓の専門学校を出て、しばらくは某菓子店でケーキ職人として働いていた。けれど、一昨年からそのお店は辞めて、今は父のお店を手伝っている。 いずれまた絢爛豪華な洋菓子を作る世界に戻るかもしれない、という気持ちはあるけれど、それより何より、今は父からケーキ作りを教わりたいと思う気持ちが強かったからだった。
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