出逢いは雨音のなかで

3/11

113人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
喫茶木枯らし、はその名の通り木の温もりを大事にしたカウンター5席とテーブル席が数席しかない、決して大きいとはいえないカフェだ。 モーニング、ランチ、ティータイムと時間が分かれているけれど、オープンの8時からクローズの19時まで、どの時間もご常連さまのおかげでそこそこ繁盛している。 といっても小さなお店なので、正直父と私、ふたりが常時お店にいる必要はなく……。 開店準備と仕込みが終われば、平日はキッチンカーで街へ出張販売にいくのが私の役目だった。 ただしそれは晴れ、ないし、曇りの日のみ。 ランチ前に公園の駐車場で販売を開始するのだけれど、雨の日は客足が減るからキッチンカーは出さないことにしているのだ。その代わり、私が店に出て、その日父は休み、というのが私たち親子の決めたルールだった。 もう定年を過ぎている父の体力を心配してのことだったけれど、たまにやってくる休日はご褒美のようで楽しんでいるようだ。 元々お店が日曜定休ということに加え、キッチンカーは土曜日も休んでいるから、雨の日にお店を任されても休みが無い、ということにはならないのだけれど、本職の方が天気に左右されるというのはなかなか予測が立たなくて厄介だ。 今日は新しいカフェドリンクを売り出そうとシロップを仕入れていたのに。 そもそも雨の日は、お店への客足も鈍る。 わずか数組の、モーニングを食べにきたご常連さまが帰られ、がらりとした店内に父が試作のケーキを持って現れた。小柄だけれどその分鍛えることが好きで、かつ目つきが異様に鋭い父は、まるで空手家に間違えれられることもある。でも実際は甘いものに目がなく、特に彩り豊かなケーキが大好きなおじさんだ。 鮮やかな赤いムースは苺だろうか。断面は白と黒が交互になっていて、クリームとチョコレートを重ねているのだろう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加