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私はテッペン近くまで登らなければとても届かなかったと思われるのに、彼は半分ちょっと登った先で素早く電球を付け替えてしまった。古い電球を渡される。
「ありがとうございます……」
「ん。あともう一個ある?」
「え?」
「表、チカチカしてた」
そう言って彼が指刺したのはガラス戸の外。確かに暖色の電気がついたり消えたりしている。
「ついでに替えるけど」
「ありがとうございます、持ってきます」
彼は小さく頷くと、ひょいと脚立を担いで外に出て行った。
「ありがとうございました」
表の電球も替え、裏に脚立を運ぶのまで手伝ってくれたそのひとに、大きく頭を下げた。
「別に。アンタ自分でも出来ただろ」
「でも、助かりました。表も気付いてなかったですし」
「っそ。なら良かった」
そう言って彼は前日と同じテーブル席に座る。
「今日も同じので良いですか?」
「ああ。昨日の上手かった」
ほっと息を吐くとじわじわと喜びが胸に迫ってきた。自分の見立てが間違っていなかったときは嬉しい。思わずにやけそうになった慌ててカウンターに向かった。
不良くんは今日も真剣な表情で本を読んでいる。お礼にテイクアウトとしてレジ脇に並べている小袋のクッキーをひとつ添えた。私がちょっとずつ作っている商品だ。
「どうも」
「ごゆっくりどうぞ」
「これは?」
彼の大きな手がクッキーを摘む。
「宜しければ召し上がってください。甘いもの……お嫌いではないですか?」
「ああ。意外って言われるけど」
こんな見た目だから、と言って不良くんが皮肉げに笑うから、思わずそんなことない、と声を上げてしまった。静かな店内に響いた声に慌てて口を噤む。
「すみません。父が、すごい強面なんですけど甘いものに目がなくて。だから、あの、あなたも」
「霧島」
「え?」
「名前」
「きりしま……さん」
「ん」
「あ、古賀、です」
「おー」
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