出逢いは雨音のなかで

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霧島さん、は軽く返事をすると再び本に目を落とした。 カバーがかかっているから何の本かわからないけれど、ひどく真剣に読んでいるから、音を立てないようにそっとカウンターへ戻った。あと十分ほどでランチが始まる。きっとまた雨でもお客様は来てくださるだろう。 あと少し、この擽ったいような空間を感じていたくて、静かにそっと準備を再開した。 天気予報に反して、雨が三日間続いたのち、翌日は朝から快晴だった。 久し振りに晴れてほっとする反面、どこか寂しく感じるのは霧島さんに会えないからなのかもしれない。 昨日もランチ前にやってきた霧島さんは、珍しくお昼ご飯を食べていった。タルタルソースが自慢の唐揚げプレート。一応喫茶店と謳っているから盛り付けは工夫しているけれど中身は唐揚げ定食だ。それでも彼の胃袋に対して足りるだろうか、と不安になってしまった私はこっそりライスを多めに盛り付けた。 その思いが伝わったとは思えないけれど、帰りがけレジで「美味かった」と小さく笑みを浮かべて囁いてくれたから、昨日も一日幸せな気持ちで過ごせたのだ。 それでもぴかぴかに晴れてしまった今朝、一抹の寂しさを覚えながらも健やかな気持ちでお店に向かい、キッチンカーのための仕込みをする。販売しているのは、サンドウィッチボックスと日替わり弁当、それにドリンクとクッキーだ。今日はフィッシュサンドと唐揚げのお弁当。効率とロスを考えて、お店のランチとキッチンカーのメニューは連動している。 お店で素早く準備をすると、キッチンカーに乗り込んで、町の中央公園に出発する。駅から程近い公園は、お昼時は休憩を取る会社員やお散歩中の子連れで賑わうから、なかなか売り上げが良い。 週に何回か買いにきてくれるOLのお姉さんが、晴れたからやっと食べられる!とサンドウィッチを買って帰ってくれたのが嬉しかった。
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