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「UFO探し」 作:花 千世子
もういっそのこと、キャトルミューティレーションでもしてほしい。
だって、今日は六月二十四日。
UFO日らしい。
それなら宇宙人登場しろよ、UFOの大群が空を埋め尽くす、ぐらいしろよ。
そういうことがあってもいいじゃないか。
とにかく宇宙戦争であろうと、友好条約を結びにきたのであろうと今の退屈な高校生活から抜け出せればそれでいい。
そんなふうに思いながら、学校の帰り道、とぼとぼ土手を歩く。
すると。
「ゆーふぉー!」
女性の叫ぶような声が聞こえた。
思わず立ち止まって空を見上げてみたが、UFOらしきものは飛んでいない。
僕が歩きだそうとしたところで、女性が駆け寄ってきた。
「あの、UFOが、UFOが」
「UFOがどうしたんですか?」
「お願いします! UFOを探してください」
UFO探しを僕とする?
なぜ? 赤の他人なのに?
そんなふうに思っていると、女性はおもむろにこう言う。
「あなた、〇〇高校の制服、ですよね」
「はい。一年生です」
「体力がありそうで、目も良さそうなので、UFOを探すには最適だと思いまして」
「確かにUFO探しは目が良くないとできないと思いますが、体力って必要ですか?」
「必要です。私だって、散々、走り回ったんですから」
どんだけUFO好きなんだよ。
僕は心の中でツッコミを入れて、女性をちらりと見る。
顔はかわいいし、華奢な体に、大学生くらいの女性は、正直、僕好みだった。
だから、ついついこう言ってしまったのだ。
「わかりました。UFO探し、手伝います!」
「ありがとうございます!」
「でも」
僕はそう言ってから空を見上げる。
午後四時の空は、まだずいぶんと明るい。
「あのー、UFOを探すのなら、暗くなってからのほうがいいんじゃ――」
「何を言ってるんですか! 暗くなったら大変なことになります!」
女性は今にも噛みついてきそうな勢いでそう言った。
「まあ、ちょっと怖いですよね。連れていかれそうで」
「そうです。命が優先です」
確かにUFOが人さらいをしやすいのは、暗くなってからだろう。
命大事に。そりゃそうだな。
「とにかく探しましょう」
僕が言うと、女性は「あ、そうだ写真」と言ってバッグをごそごそとやる。
UFOの写真があるの?
僕が興味津々で女性を見ていると、彼女はスマホを差し出す。
その画面に写っていたものを見て、僕は目を疑う。
すると、わん、と足元で鳴き声が聞こえた。
驚いてそちらを見れば、小型犬が大きな瞳でこちらを見上げている。
ポメラニアンだ。
女性が見せてくれたスマホの写真と同じ犬。
「UFOー!」
女性はポメラニアンを抱き上げ、「探してたのよおお」と泣きそうな声を出す。
僕はいまいち状況がつかめないまま、女性に聞いてみる。
「あの、もしや、UFOとは……」
「うちの子の名前です。六月二十四日生まれで、父が名付けました」
「まじかよ……」
じゃあ、暗くなってからだと大変なことになるっていうのは、見つけるのが困難で、事故に遭ったり、保健所に連れていかれたりする可能性があるから、ってことか。
命大事に、そういうことね。
あーあ。UFO探しかと思ったのに。
現実なんてこんなもんだよなあ。
そう思って女性を見ると、UFO(犬)を抱きしめ「急に走り出しちゃダメよ……」と話しかけていた。
UFOもうれしそうに女性の匂いを嗅いでいる。
まあ、結果オーライか。
僕は何もしてないけど。
女性が「お騒がせしました。ありがとうございました」と言って犬と共に歩き出す。
よほどうれしかったらしく、女性は鼻歌を口ずさんでいる。
僕は一人と一匹と眺めつつ呟いた。
「なーんてややこしい名前」
すると、犬がこちらを振り返った。
その口がこう動く。
「うるせえな、俺はこの名前が気に入ってるんだよ」
「えっ」
俺が目をまん丸くして、犬を見る。
確かに犬が、喋ったよな。
僕は驚きながらも、こう思う。
案外、ここも悪くない。
もう少し、この地球の調査を続ける気力がわいてきた。
<了>
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