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「地球外婚活」 作:花 千世子
『今の時代、地球の異性だけが異性だという考えはもう古い!』
スピーカー越しに響く声が、きいいんと響いた。
僕が顔をしかめると、会場内の男性陣から、「そうだそうだ!」と声が上がる。
何ともむさ苦しい光景だな、と思った。
僕は会場の隅に寄り、この異様な光景を遠巻きに見ている。
大きなモニターの前には三十人前後の男性たちが集まり、モニターに熱い視線を送っていた。
画面に映るのは、すらりとした痩身の男で、スーツをビシッと着こんで、こほんとわざとらしい咳をしてから、続ける。
『あなた方は、今まさに、他の惑星の女性と婚活をしようとしている。なんて賢い! なんてすばらしい!』
なんだか胡散臭い台詞だな、と思った。
まあ、この婚活が実は詐欺であろうと、僕には関係ない。
僕は、友人から『婚活のサクラのバイトをしてくれないか』と言われて、渋々OKしたのだ。
フリーランスの僕だからOKしたものの、普通だったら妻帯者の僕にこんなこと頼まないだろう。
バイト代が弾むらしいから来ているだけだ。
バイト先もとい婚活の会場は、ごく普通の市民ホール。
やけにしゃれた内装と、主催者がモニター越しという怪しさはあるものの、婚活自体は真剣にやる気のようだ。
ただ、女性陣の姿が見当たらないが。
『今回、事情により女性陣の登場はもう少し時間がかかります』
主催者はこう続ける。
『モール星の女性には、色々と理由がありましてね』
僕はモール星と聞いて、ギョッとして婚活をする気満々の男性陣たちを見る。
モール星の女性……というか、性別上のメスといえば。
簡単に言えば、木のおばけだ。
大きな木に、バカみたいにデカい目と口がかろうじてついているものの、何本もついた触手が気持ち悪い。
一度、妻にモール星人の女性の写真を見せてもらったことがある。
だから知っている。
あれは、女性ではなく、ただのバケモノ。
僕はその日、モール星の女性という名のバケモノに食われる夢を見たくらいだ。
そして、モール星の女性は根があるので動けない。
木だから、移動不可なのだ。
「……ということは」
僕は嫌な予感がして、さり気ない動きを装って出入り口まで移動する。
『モール星の女性は、地球の男性が大好きです』
ああ、養分としてな!
『モール星に行けば、もう婚活をしなくて済むのです!』
あっちに行けば二度と帰って来られないからな!
出入り口のドアを開けると、地面が少し遠くなっていた。
係員の制止を振り切り、僕は飛び降りる。
地面に転がり、上を見上げれば、銀色のUFOは既に空高くまで飛んでいた。
「外観も内装も『市民ホール』だと錯覚させたUFOだったのか」
UFOはあのままモール星に行くのだろうな。
働き盛りの男たちを乗せて、モール星の女性の養分にするために。
惑星間の婚活が流行している昨今。
ああいうのもあるから、注意したほうがいい。
僕は関係ないが、このことは親族や友人たちには教えておこう。
あと、このバイトを紹介してきた友人とは縁を切ったほうが良さそうだな。
「僕まで巻き込まれるところだった」
そうぼやきながら、家に帰ると、「おかえり」と愛する妻の声。
顔を上げれば、ぷるぷるとしたゼリー状の大きな丸い体がぬっと覗く。
僕は思わず妻に抱きつく。
ひんやりとしていて、少しベタつく、そんな体が愛おしい。
ジェル星の女性が宇宙で一番かわいいな。
<了>
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