11

9/9

5219人が本棚に入れています
本棚に追加
/356ページ
「お疲れ様でした」 1日掛かった撮影も無事終わり、他のスタッフさん達に挨拶を済ませる。 「お疲れ様。さっちゃん」 今日は2度の衣装替えをした香緒ちゃんが、私の元にやって来た。 香緒ちゃんとの撮影は来週もあるし、なんならお正月も会う予定がある。 けれど、睦月さんとの仕事は年内最後で、次に会うのは一月後だと思うと寂しい。 「どうしたの?浮かない顔して」 顔に出ていたのか、香緒ちゃんに顔を覗き込まれてそう尋ねられる。 「あ、ううん?何でもないよ?」 そう言って誤魔化すと、香緒ちゃんは「そう?」と言って姿勢を戻した。 「あ、そうだ。今年のお疲れ様会はうちですることにしたから」 毎年、香緒ちゃんと希海さんとの撮影がある年末の最終日。お疲れ様会と称して3人でご飯を食べに行くのが恒例行事になっている。 最初の年は、ホテルの鉄板焼きのお店の個室。連れて行かれてから、とてもじゃないけど自分の会費は出せないと顔を引き攣らせた私に、『何言ってんの?さっちゃんを慰労する会なんだからさっちゃんは食べるだけだよ?』と香緒ちゃんに笑顔で言われた。 それから色々連れて行って貰ったが、今までご馳走になってばかりだ。 「いいの?クリスマスイブにお邪魔しても」 今年は来週末の金曜日。クリスマスイブが私にとっても仕事納めとなる。 「もちろん!武琉も張り切ってるからね」 武琉君の作ったご飯は一度だけ食べた事がある。結婚式のメイクの打ち合わせに行った10月。『大したものじゃなくてすみません』と出て来たのは、ハンバーグだった。それはそれは美味しくて、武琉君の手作りだと聞いて驚いたのだった。 「楽しそうだね」 話しながら歩く私達の後ろから、睦月さんの声がして振り返る。 「睦月君。お疲れ様。僕達毎年さっちゃんを慰労する会をしてるんだけど、今年はクリスマスイブだし、うちに来ない?って話してるところ」 香緒さんが笑顔でそう言うと、睦月さんは心底羨ましそうな顔を見せる。 「え……いいなぁ……。俺、普通に仕事して帰るだけなんだけど」 落胆したように肩を落とす睦月さんの様子を見て、香緒さんは息を吐き出して口を開く。 「仕方ないなぁ。睦月君も来る?」 えっ!本当に?と、言いそうになって口を押さえる。私が喜んでどうするんだ。 睦月さんの方を見上げると、睦月さんも本当に嬉しそうに笑顔になっていた。 「えっ?いいの?俺も入れてくれるの?」 「今回は特別!どうせ一緒に過ごす彼女もまだできてないんでしょ?」 呆れた様に言う香緒ちゃんに「どうせいませんよ……」と睦月さんは苦々しい顔をして答えた。
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5219人が本棚に入れています
本棚に追加