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目的の場所は和洋菓子の並ぶコーナーの先にあって、とにかく人の隙間を縫うようにして進んだ。 これは本気ではぐれそうだ、とさっちゃんの手を強く握っていると、さっちゃんも必死な様子で握り返して進んでいた。 やっと辿り着いた、かなり充実したお酒売り場。ワインコーナーを中心に混み合っているが、さすがにスイーツ売り場よりマシだった。 「やっと着いたね」 2人とも、山でも登って来たみたいに息を切らせながら顔を見合わせる。 「はい。途中、迷子になるかと思いました」 とさっちゃんは笑って答える。 「うん。離さないよう必死だったよ?」 俺も笑いながら返した。 もちろん、今からだってその手を離すつもりなんかないけど。 「あの、今回希海さんには地ビールはどうかな?って思ってるんです。あっちの方に並んでたと思うんですけど」 そう言ってさっちゃんが指を指した方に2人で向かう。 「結構あるんだね」 その一角には沢山の瓶が並んでいて、それを眺めながら口にする。 「ですね……。試飲は出来ないからネットの口コミで良さそうなのは調べてきたんですけど」 「さすがさっちゃん。ありそう?」 真剣に棚を見つめるさっちゃんを見守ると、「あ、これだ」と嬉しそうな顔になった。 「あってよかったね。これにする?」 「そうします。見てたら悩むだけだと思うんで」 アッサリとさっちゃんは決めて、そう言う。 多分、下調べは万全で挑んだ今日の買い物なんだろうなぁ、と思う。俺なんて行き当たりばったりなのに。 そしてふと他に目をやると、少し向こうにあるものに目が止まった。 「ねぇねぇさっちゃん。ちょっとあれ見に行かない?」 子どものように誘って、俺はさっちゃんの手を引いてそれが並んでいる棚へ向かった。
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