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一つひとつ丁寧に、じっくりと商品を見つめるさっちゃんを、俺は横から眺める。 すっかり人が疎らな売り場に移動して来たけど、手は繋いだままだ。さっちゃんはもしかしたら、手を離すタイミングを失ったままなだけかも知れないけど、俺はもちろん離したくない。 けど最初の、緊張の伝わるような手から変わり、何となくだけど、安心して繋いでくれている、そんな気がした。 「睦月さん。これ、香緒ちゃんっぽくないですか?」 少し姿勢を低くしながら見ていたさっちゃんは、不意に顔を上げて俺を見た。 「ん?どれ?」 俺も同じ様に屈み、下の棚に並べられた商品を見る。そこには同じシリーズだと思われるミニグラスの色違いが並んでいた。そして、さっちゃんはその中から、淡い紫色の物を指差した。 「あ、良いね。じゃあ、希海にはこっちかなぁ」 そう言って俺は、オーソドックスな濃いめの青いグラスを指す。 「確かに似合いそう。でも、響君はこっちだなぁ」 さっちゃんはそう言って、青と対になる赤ではなく、淡い黄色を見た。 「うんうん。こっちの方が響君っぽいかも。で、武琉君は……」 と俺が言うと、「「これ」」と2人で同じ物を指差した。 それは淡い緑色。 俺が最初に武琉君に出会ったのは、自然の多い場所だったし、見た目は狼みたいな精悍な感じがするけど、中身はかなり癒し系な気がする。 「武琉君、ああ見えて癒し系ですもんね?」 俺の心の中を読んだかのようにさっちゃんは笑って言う。 さっちゃんも、俺をかなり癒やしてくれてるけどね?なんて思いながら、「そうだね」と笑って答えた。 「決まり!包んで貰ってくるからさっちゃんはこの辺見ててくれる?人少ないし、見つけられると思う」 さすがに会計するところまで連れて行くなんて無粋な真似は出来ないから、仕方なく手を離してそう言う。 「じゃあ、ちょっとウロウロしてます」 さっちゃんから離れて俺はレジに向かう。 さっき選んだものともう一つ。それを店員さんに伝えて会計を済ませる。 さっき、さっちゃんがじっと一つのグラスを眺めていたことにはすぐ気づいた。 淡いピンク色の桜の花がモチーフになってるもの。絶対気に入ったんだなぁって、そう思って見てた。 けどさっちゃんは、自分はこれが欲しいなんて言ったりしないし、俺に強請るような視線を送ったりもしない。 ただ、美術品でも見るように、気に入った物を見てただけなんだと思う。 さっちゃんも、喜んでくれるといいんだけどな…… そう思いながら振り返り、俺は遠くに見えるさっちゃんの姿を目で追った。
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