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「さっちゃん〜。おーい!手、止まってるけど、大丈夫?」 目の前で、座って私にメイクされていた香緒ちゃんがこっちを見て手を振っている。 「へっ!あ、ごめん。ぼんやりしてた」 我に返って持っていたブラシを置くと、私は最後の仕上げに取り掛かる。 今日は年内最後の撮影日。そしてクリスマスイブ。世の中はどこもかしこも華やかな装いで、何となく皆浮足だっているような気がする。 そんな中、私はこの前の睦月さんとのショッピングを思い出して一人モヤモヤしていた。 もちろん、凄く楽しかったし、ずっとドキドキしてた。迷子にならないようにって手を繋いだり、腕を軽くだけど組んだり。 周りから見たら恋人同士に見えないかなぁ、なんて思ったけど、現実は違った。 『ねぇねぇ。さっきの人、格好良くない?』 すれ違った女性2人組からそんな会話が聞こえて来て振り返る。 『一緒にいたの妹?イケメンなお兄ちゃんなんて羨ましい!』 そんな話をしながら、向こうもこっちをチラ見している。間違いなく私達を見てそんな事を言っているのが分かった。 やっぱり……そうだよね…… デパートから外に出ながら、私は思い知る。だから、私はそっと掴んでいた睦月さんの腕から手を離した。本当はもっと触れていたかったけど、睦月さんが迷惑だろうなって。そんなネガティブな事ばかり頭を過ってしまう。 だから、睦月さんに「何処か寄りたいところある?」って尋ねられても、「用事があるので帰ります」としか答えられなかった。用事なんて、本当はかんちゃんの散歩くらいしかなくて、それだっていつもの時間まではかなりある。 でもその時、これ以上睦月さんと一緒にいて、もっと現実を知らされる勇気なんてなかった。 「何かあった?」 私にパウダーをはたかれながら、目を閉じたまま香緒ちゃんはそう尋ねる。 「……何もないよ?」 私が力なく答えて手を下ろすと、香緒ちゃんは目を開ける。 優しげで柔らかな顔。こんなに綺麗だったら、睦月さんと歩いてても恋人同士に見えるのかな?なんて、思ってしまって胸がズキリと痛む。 香緒ちゃんだって、この容姿の所為で辛い思いをした事があるって知っているはずなのに。 「さっちゃん。悩んでるのって睦月君の事?」 香緒ちゃんに背を向けて道具を片付けていると、香緒ちゃんの優しい声が後ろからした。 私の気持ちを知っているから、やっぱり香緒ちゃんには隠し事なんて出来ないな…… 私が振り返ると、香緒ちゃんはふんわりと微笑んでいた。そして私は、その顔を見てゆっくり頷いた。
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