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帰りに話聞いてくれないかな?って香緒ちゃんには言って臨んだ撮影。
今年最後の3人での撮影も無事終わり、他のスタッフに挨拶をしてから帰る準備をして、いつもの重い荷物を抱えて香緒ちゃんと連れだって車に向かった。
「じゃ、とりあえず家に行こっか。まだお疲れ様会の用意は出来てないと思うけど」
香緒ちゃんは車のエンジンをかけながら、隣に座る私にそう言った。
「うん。武琉君一人で用意して貰うの悪いし、手伝うよ?」
「だね。僕だってお皿並べるくらいできるし」
走り始めてしばらくすると、香緒ちゃんから口を開く。
「あのさ、さっちゃん。その……睦月君とはどうなの?」
前を見て、運転しながら香緒ちゃんは聞きづらそうに私に尋ねる。
「何も……ないよ。色々相談に乗ってもらったり、誘って貰ったりはするけど、それだけ。睦月さんにとっては、私も香緒ちゃんと同じ。妹みたいな存在なんじゃないかな……」
私も前を向いて、流れ行く高層ビルを眺めながらそう答えた。
「そうなの?それ、睦月君に聞いた?」
「聞くも何も……きっとそうだよ……」
そんな事、怖くて聞けない。
私の事、どう思ってますか?なんて、答えは決まってる。だから、妹枠で香緒ちゃんと同じように可愛がってもらってる方がいい。その方が、ずっと睦月さんといられる。
誰かをこんなに好きになった事も、私を好きになって欲しいって思った事も初めてなのに、それ以上の関係を望むなんて烏滸がましいから。
そんな事を考えて、溜め息を吐き出した。
「睦月君て……ほんと、鈍感だよねぇ……」
目の前の信号が赤になったタイミングで、ハンドルに凭れかかるように私の顔を覗き込むと、香緒ちゃんは呆れたようにそう言った。
「そう……かな?」
私はその香緒ちゃんの顔を見ながら答える。
「そうだよ!もっと鈍感だと思ってた僕や希海ですら、さっちゃんの事に気づいたのに、当の本人が気付かないってどう言う事⁈」
珍しく半分怒りながら香緒ちゃんがそんな事を言い出す。
「えっ!て言うか希海さんにも気づかれてるの⁈」
信号が青に戻り、また前を向いてハンドルを握る香緒ちゃんに、私は慌てたように尋ねた。
「そりゃそうだよ。だってさっちゃん、睦月君とは最初から距離近かったもん。それが嫌そうでもなかったし」
改めて言われると、猛烈に恥ずかしくて顔が熱くなる。
そんなに分かり易かったの?
でもそれは、何年も私を間近で見ていた2人だからこそ、なのかも知れない。
睦月さんにとっては、それが普通の事にしか見えないのかな……。
そんな事を思いながら、私はまた流れる景色に視線を送った。
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