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かんちゃんが睦月さんに慣れてくれたから、週末はかんちゃんを連れて睦月さんの家で過ごすようになった。 訪れるたびに、私と、そしてかんちゃんの物が増えて行く。 かんちゃんなんて、狭いうちのマンションより、1LDKだけど分譲貸だからそれなりに広い睦月さんの家のほうが、走り回れて楽しそうだった。 そうしているうちに2月となり、今度は段々と仕事のない平日も睦月さんの家で過ごすようになった。そして気がつけば、ほぼ毎日を睦月さんの家で過ごすようになったころには、3月になっていた。 「あっ。油切らしてるの忘れてた」 昨日、睦月さんと『いただき』に寄ると、竜二おじさんが『いい海老入ったんだ』と持たせてくれて、今日はそれを天ぷらにしようと張り切っていたのだけど、重要な物を買い忘れて帰って来てしまった。 「俺、買いに行ってくるよ。他にはない?」 さっき買ってきたものを冷蔵庫の前に下ろしている睦月さんに、私はそう尋ねられる。 「うーんと……、無い、と思う」 「OK!じゃ、行ってくるね!」 「ごめんなさい。早く思い出せたらよかったのに……」 「いいのいいの。すぐ帰ってくるね」 そう言って睦月さんは私の頭を撫でるとキッチンを後にしていった。 まだ時間は夕方3時を回ったところ。 本当なら、ちょっとお茶してから夕食の準備をするところだけど、睦月さんが買い物に行ってるあいだ、少しでも下拵えしておこう、と私は買ってきた材料を並べた。 キッチンの入り口には、ペットゲートに脚をかけて尻尾を振るかんちゃんの姿がある。 「あとで散歩行くから待っててね、かんちゃん」 私は顔を覗かせてかんちゃんにそう言った。 最近は日もだんだん長くなってきて、ずいぶんと寒さも和らいできたから散歩も辛くない。すっかりと睦月さんの家の近所を開拓し尽し、定番のお散歩コースもできてきた。 私が野菜を切ろうと包丁を取り出すと、玄関のインターフォンがなる。 なんだろ? 私はインターフォンに向かうと受話器を取った。睦月さんからは、『荷物とか郵便が届くことあるから、嫌じゃなかったら受け取っておいて』と言われてて、実際に何度か受け取ったことがある。 「はい」 私がそう言って出ると、しばらく無言が続き、そして恐る恐ると言った感じの女性の声がした。 「……ここって……岡田さんのお宅……ですよね?」 なんでそんなに不思議そうに尋ねるんだろう?と思いながら、私は「はい。そうですが……」と答える。 受話器の向こう側から、誰か話している気配がし、そして今度はこう聞こえてきた。 「長門だけど。睦月いねぇの?」
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