第1話

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第1話

それはまだ彼女が小さかった頃。保育園でお昼寝の時間になるとひとり抜け出して、縁側で体育座りしながら空を見上げてはぶつぶつと何かを呟く幼女が居た。 名を、菅原小春という彼女のこの《未知の星との交信》は、この頃から、高校生になった今でも続いている。 16歳。桜舞い浮かぶ入学式後の四月は、なかなかクラスの皆の輪の中に入れず、一匹狼なところが悩みだった小春。そんな小春は、ついに5月頃から学校に通わなくなった。 通わなくなってからも、小春は未知なる星との交信を続けていた。5月30日の今日、小春は公園で交信をしていた。交信を終えて帰ろうとした午後6時半。偶然通りがかった洋食屋の店主のジョンに「お腹、空いてないか?」と声をかけられた。 小春はその瞳にジョンの爽やかスマイルを見て、深く頷き、サムズアップして答えた。 ジョンは小春の親戚で、今日は自転車でデリバリーしていた帰りで、自転車から降りてゆっくり歩きながら、小春の話を夢中になって聞いてくれた。 「それでですね、彗星からの通信によれば、今夜は流れ星が三つも流れるそうなんです」 「願い事はいくつまでとか、決まってるの?」 「はい。彗星からの通信によれば、三つまでにすれば叶うそうですよ」 「お、そろそろ、うちの店に着くぞ。先に入って、カウンター席で待ってて」 ジョンがお店の前に自転車を停めている間に小春はお店のドアを開ける。からんからんと鳴ったのはドア上部のベルの音だ。小春は言われたとおりにカウンター席に座り、メニュー表をパラパラとめくった。 間もなく、ジョンが厨房に入る。 「そのメニュー表はお客さん用のだよ、小春ちゃん」 小春は不思議そうな表情で小首をかしげつつも、メニュー表を元の位置に戻した。 「はい、お待たせ。当店裏メニューのハンバーグとナポリタンの定食だよ」 鉄板に載ったハンバーグからは肉の良い香りが漂う。 「こんなにボリュームがあるとは。税込みでお幾らですか?」 店主のジョンがニカッと笑う。 「大丈夫、その定食はタダだから。一円もとらないよ」 それを聞いてほっとした小春は、安心してハンバーグを細かく切って食べ始めた。 小春が最後にタマネギのコンソメスープを飲んでいると、また小春の背後からベルの音が。 「あ! ここに居たな~、小春ちゃん♪」 「その声は、確か、紗々さんだね。私は学校へは行かないよ。行ったってどうせひとりぼっちになるだけだし、つまんないし、退屈だし」 「まあまあ、そんなこと言わないでさ、たまには学校来てみたら? 文化祭だけでも良いからさ♪」 「どうしてそんなに私にかまうの?」 ジョンが何も言わずにそっとしょうが焼き定食を夏希の目の前に置いていった。今度はしょうが焼きの良い香りが小春の席まで漂ってくる。 「なぜって? それは、小春ちゃんのこと大好きだし、もっともっと小春ちゃんのこと知りたいな~って、思ってるからだよ! これホント! マジだから」 「あぁ、そう・・・・・・」 「ねぇ、小春ちゃんて、未知との星と交信出来るんでしょ ? どんな話してるの?」 ここでようやく夏希も定食を食べ始める。 「このお店に入ってからも未知の星からの情報を受信していたんだけど、どうやら今夜は流れ星が流れるらしいんだ。流れ星は三つで、叶えてもらえる願い事も三つだそうだよ」 早々に食事を済ませた夏希は、ごちそうさまと合掌すると、テーブルに両肘をついて、顔だけ小春のほうへ向ける。 「へぇ~、流れ星に願い事かぁ! 何かロマンチックな話ね。他には何か受信してないの?」 小春はジョンを見た。ジョンが頷いたのを合図に、小春は告げる。 「実は、もうすぐ隕石が落ちてくるらしいんだ。曰く、八月の頭には地球に衝突するらしいから、気をつけようね、お互い」 「八月に隕石か。うんうん」 夏希はスクールバックから手帳を取り出し、八月のページにピンクのインクで[隕石が地球に衝突する]とメモした。 その後、小春は学校では今何が流行っているのかや、自分のことをクラスメイトたちはどう思っているのかを聞いた。どうやら夏希の話曰く、皆、小春に興味があるらしいという。 小春は少し考えてから、夏希と一緒に登校することに決めた。
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