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「トーマ、君は一時の熱で間違えているだけだ。よく考えてごらん」
優しげにスミスが言いながら、腕の無いはずの右袖からスミスは細い短剣を冬真に向かって投げた。
その反動で自分を襲うに違いない。
だが、冬真は既にわかっていたかのようにかわして、遠いところでカラン、という音だけがした。
冬真がすっと右腕を上げ、スミスがやはり自分を殺すのだと口元を緩めると、パチン!という音が冬真の指からしたと同時に、この講堂二階含めた全てのドアが開き何人もの人間が入ってきた。
ここに入る直前、冬真はあの魔女に連絡をし、自分が許可を出すまで何が起きても一切講堂に入らないように伝えていた。
魔女は冬真が入った後ドアが開くか試してみたが、案の定冬真の魔術で全てのドアにロックが掛けられ、魔術師達は冬真の合図が出るまで全てのドアの前でじっと待機していた。
「遅いんじゃないかい?」
講堂の二階席から、長い黒髪の女が面倒そうに舞台に向かって声をかける。
「捕縛を」
冬真は二階を見ること無くそれだけ言えば、十人近い人間がスミスを取り囲みあっという間に縛り上げ、身体に何も隠していないか乱暴に検査し始めた。
上着は中途半端に脱がされ身なりを整えていたスミスの影もないほどに魔術師達が入念にスミスを確認している中、こちらも見ずに立っている冬真にスミスは声をかける。
「残念だ。君は僕に近い、正しい魔術師だと思っていたのだが」
整えられた髪は乱され身体を器具で拘束されたまま、スミスは心底残念そうに言った。
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