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「そうですね。僕もあなたと同じ道を辿らなかったという保証はありません。
ですが、僕は幸運なことに素晴らしい家族に恵まれたので」
「なるほど。そんな君を変えてくれる素晴らしい人達に会えたのか。
羨ましいとは思わないが、私には無かったので経験してみたかったという興味はあるかな」
軽く笑いながらそう言ったスミスに、冬真はやっと身体を向けた。
「僕が幸運にも素晴らしい家族に恵まれたことは認めます。
ですが、貴方の言葉は、まるで自分を変えてくれる人がいなかったように聞こえるのですが」
その問いかけに、腕を動かせない状態になっているスミスが肩を上下させた。
「その通りだよ。私にはそういうものは無かった。誰も私を知ろうとしなかったしね」
「何を、思い違いしているんですか?」
急に冬真の声は低くなる。
「自分には無かった?自分にはしてくれなかった?何故全て受け身なんですか?
貴方は結婚をし、娘まで授かった。
全て相手に原因があるのだと、自分を理解しない方が悪いのだと、自分の考えこそが正しいのだと、絶対に自分から歩み寄らず動かなかったのを、他人のせいにしているだけでしょう?」
「若い君にはわからないだろうが、妥協してはいけないものも多いのだよ」
「違います。それは妥協ではありません。
貴方がただ、違う意見を聞く心の器を持っていなかっただけです。そして相手を大切にしようと思うのなら、相手を知ろうともっと行動できたはず。
もし自分と似たような者なら自分を理解してくれはずだと思っているとすれば大きな間違いですね。
むしろ同族嫌悪で相手を面白半分で実験台にするでしょう、僕にしようとしたように」
スミスはじっと冬真を見上げていたが、軽く息を吐いて口角を上げた。
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