第五章 愛しい人へのアメシスト

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「わからないな、君の言っていることは」 「でしょうね。わかる必要もありませんよ。 あなたには、もうやり直すチャンスなどありませんから」 数名の男女に無理矢理スミスは立たされると、薄く笑みを浮かべた。 「君がどうなっていくのか、出来ればずっと見てみたいものだ。 若い理想論が打ち砕かれていく様を、きっと見られると思うのだがね」 スミスの口に無理矢理液体が流し込まれ、スミスは目を見開き天井を見上げると大きな声で笑い出した。 その異様な笑い声はそんなに長く続くことも無く、スミスは事切れたように大きな音を立て倒れる。 魔術師達はスミスを取り囲み完全に意識を失ったことを確認して猿ぐつわを口に噛ませると、布で全身をぐるぐるに巻き付け、外から見えないようにそして誰にもわからないように壇上から運び出す。 冬真はただそれを壇上から眺めていた。 「冬真」 頭上から女の声がして、冬真は前髪を掻き上げると面倒そうに視線を向ける。 「イジーの魂は約束通り僕の所有とします」 「構わんさ。で、あの男の尋問は付き合うかい?」 魔女は二階の手すりに肘を乗せ下の冬真を見ているが、既に冬真は壇上から降り、放り投げていたコートを羽織り客席の間を歩き出している。 「不要です。人間の司法で裁かないようにだけはお願いします」 「あぁ。今度は魔術師としての法が優先するからね。もう二度と外の空気は吸えんだろうさ」 「そう願いたいものです」 冬真はそれだけいうと魔女を見ること無く一階のドアから出て行った。 それを見て魔女の唇は軽く弧を描く。 「殺さない、に賭けた私の勝ちだ。 他の者どもから目一杯勝ち金をぶんどらないとねぇ」 いつの間にか艶やかな毛並みの黒猫になっていた魔女は、にっと笑ってその建物から軽やかに出て行った。
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