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音が、聞こえる。
おそらくこれは食器の音。
そのうち、爽やかなハーブの香りが流れてきて、強ばっていた自分の指がぴく、と動くことに気が付いた。
朱音は外の、現実に起きている音や匂いを頼りに必死に意識を取り戻そうとする。
だって、会いたい人が、いるのだから。
「朱音さん」
柔らかな声が耳に届き、朱音はまだ目が閉じているのに涙が溢れてしまう。
夢ではない、しっかりと側から聞こえたいつも爽やかなはずの声が不安げに聞こえて、朱音は自分のベッドの上で目をゆっくりと開けた。
「朱音さん」
再度しっかりと聞こえた声に、朱音は涙を流しながら顔を向ける。
冬真はずっと眠り続けていた朱音のベッドの横に椅子を置き、座っていた。
ただ何も言わず涙を流して自分を見る朱音の顔に手を伸ばし、長い指で顔を伝うその涙を拭う。
「今、アレクを呼んできます。
まだ完全に術が解けていない可能性があるので、その為の飲み物を」
そう言って冬真が立ち上がろうとしたのを、朱音が動こうとしたのに気づき慌てて冬真がベッドに近寄る。
「どうしました?気持ちが悪いですか?」
心配そうに覗き込む冬真に朱音は小さく顔を横に振って、冬真のシャツの袖を引っ張った。
冬真は引っ張られたシャツの袖に視線を向け、そして朱音の顔を見る。
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