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「やく、そく、を」
枯れた声で朱音が言った言葉。
それを聞いただけで、冬真の胸が驚くほどに締め付けられ苦しい。
冬真は自分の手に視線を向けぎゅっと握ると、横たわったまま不安げに見つめる朱音に柔らかい笑みを浮かべ、そして、ゆっくりと両手を伸ばし柔らかな朱音の身体を抱きしめる。
横たわっていた朱音をそのまま上半身を引き寄せるように起こすと、再度背中に手を回し、強く抱きしめた。
「えぇ。ちゃんと約束を守りに帰ってきました」
その声に、朱音は冬真の服を掴み、震えながら泣いている。
冬真は震える背中を落ち着かせるように優しくさすりながら耳元で囁いた。
「ただいま、朱音」
朱音は必死に顔を起こし唇を震わせる。
「お帰り、な、さい、とう、ま、さん」
必死に笑顔を見せる朱音の頬を冬真の手が包む。
震えるまだ血色の戻らないその唇に、冬真は自分の唇を重ねた。
「あなたのおかげで僕は戻ってこられたんです。ありがとう」
朱音はその声に安心したように再度目を閉じてがくりと冬真の肩に頭を乗せてしまった。
そっと朱音の頭を支えつつベッドに横たえさせまだ流れている涙を拭うと、軽く額にキスをして冬真は朱音の部屋を出た。
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