第五章 愛しい人へのアメシスト

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「これで終わったのか?」 健人が既に飲んでいたウィスキーを飲むと問いかける。 「ここでしばらく尋問を受けて本国に送られ魔術師として裁きを受けるでしょう。それが進めばあの魔術師が外に出てくることは二度とありません。おそらく」 おそらく、という言葉で止めた冬真に、健人は眉間に皺を寄せる。 「確実じゃ無いのか?」 「目を覚まさせたまま他の乗客のいる飛行機には乗せられませんので、眠らせるか拘束した上となれば船で行くことになるでしょう。 それなりのメンバーで連行するはずですが、確実、というのは言い切れないですね、相手が相手ですので」 冷静に冬真は話すが、それが本音だった。 素直に本国に送られたとして、その後刑に服すのか処刑されるのかはわからない。 こればかりはあの男の罪に相応しい罰が下って欲しいと願ってはいるが。 「まぁとりあえずは一安心に違いは無いんだな?」 健人の確認に、冬真は笑みを浮かべた。 「えぇ。それは大丈夫です」 健人は大きな息を吐いて肩の力を抜くと、ソファーの背もたれにぐっともたれ上を向く。 「すみません」 緊張の糸を解いた健人を見て、冬真は謝罪する。 健人が洋館にいる、これは冬真にとってとても支えになっていた。 健人なら自分が間違えれば遠慮無く叱る。 そういう存在がいてくれることはなんと幸せなことだろうか。 あのスミスにだっていたはずなのだ、見ようとしなかっただけで。 冬真はある意味近い存在だと感じてしまったスミスの側に落ちぬように、再度心に刻んでいた。
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