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朱音はじっと聞きながら、罪悪感に駆られる。
彼女の思いは理解できると思ったからだ。
自分は冬真に出会い、素直に行動しなさいと後押しされ、今までの悲しみの多かった生活では無い世界に導いてもらえた。
だがもしもあの魔術師を信頼し、優しく、彼を夢中に出来る方法があるなどと言われて絶対に断ることが出来たなどとは朱音は言い切れない。
出会った人間でこうも全てが左右されてしまう、その事が朱音は怖くも感じた。
「どうしました?嫌な話しを聞かせてしまいましたし気分が悪く」
「そうじゃないんです」
冬真の心配そうな声を遮るように朱音が頭を軽く振る。
「私はなんて運が良かったのだろうと思っていたんです。
私は冬真さんに出会い、この洋館に住むことになって、自分を支えてくれていたKEITOである健人さんに出会い、守ってくれるアレクに出会い、そして駄目な私を冬真さんは背中を押してくれて恋人に選んでくれた。
母を亡くし父とは不仲だった私が、そんな優しい父親のように近づいてこられたら私でも信頼していただろうと思います。
ただ運で出会う相手が違っただけでそうなるだけなのだと思うと、怖くなって」
朱音は自分の指輪に視線を向け、自分はたまたま運が良かったのだと認識する。
「僕も、一つ間違えばあの魔術師のようになっていたかも知れない、それは思っています」
朱音は驚いて顔を見れば、冬真は軽く笑みを浮かべ視線を窓の方に向けた。
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