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「なんで、今まで」
何故今まで黙っていたのだろう。教えてくれて何の問題があったのか朱音にはわからない。
そんな朱音に冬真は、
「そう、ですね。多分今の僕を選んで欲しかったからでしょうか。
貴方の心の中で美しく優しい王子として思い出にされている男より、今のどうしようもなく酷い僕を選んで欲しいと」
そう、困ったように笑って言った。
「ひ、酷いです」
「すみません」
何とかそれだけ言った朱音に、冬真はまだ流れる涙を優しく拭う。
聞きたいことが沢山ある。
でも再会したときに言いたかったことがあったのをやっと思い出した。
あまりに混乱して何も言えないところだった。
「冬真さん」
泣いていた表情を、ぐ、と我慢して引き締める。
冬真はそんな朱音の目の周りを再度拭うと、椅子に座り直す。
「あの時は本当にありがとうございました。
私にとって夢のような出来事で、いつも現実でめげそうな事があるとあのラブラドライトのネックレスを見て、癒やされて、そして支えられたんです。
私には素晴らしい思い出と、夢じゃ無いこの証がある。
まだ私は頑張れるって。
本当に、本当にありがとうございました」
最後は涙声で途切れ途切れになりながらも、朱音は必死に言い切ると深く頭を下げた。
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