第五章 愛しい人へのアメシスト

84/88
前へ
/354ページ
次へ
冬真は手を伸ばし、朱音の黒髪を撫で、顔を上げた朱音に、その手を髪から頬に滑らせる。 その行為に恥ずかしそうに目をそらした朱音を見て、何の後ろめたさも無く朱音に触れることが出来たことが、こんなにも自分自身を落ち着かせるとは思っていなかった。 自分の思い描いていた、目指すべき理想の魔術師とはおそらく違う。 だが宝石魔術師として、朱音や健人から心より綺麗だと思ってもらえる存在になることが、正しいことなのだと冬真には思えていた。 冬真は頬に伸ばしていた手を戻し、朱音の両手を自分の両手で包み込む。 全ての行為にドキドキしている朱音は、ただぼうっとラブラドライトのように虹色に輝く瞳を見つめる。 「朱音、結婚を前提にお付き合いをしたいと、再度申し込んでも良いでしょうか」 柔らかく、なのにノーとは言わせない、そんな冬真らしい声に朱音は咲き誇るような笑顔になる。 「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」 そう言って頭を下げると、冬真がその頬に手をあて自分に視線を向けさせる。 「ありがとうございます。 ただ、ノーと言われても何としてでもイエスと言わせる気ではありましたが」 冬真もそう言って笑えば朱音も一瞬驚いた顔をしたが、思わず笑ってしまう。 温かく、でも熱っぽい冬真の視線に朱音は囚われ、冬真の手がする、と朱音の唇に降りてきた。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

686人が本棚に入れています
本棚に追加