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「ありがとう。アレクもずっと一緒にいてね」
アレクは漆黒の目を丸くすると紅茶を入れて移動してしまった。
「なんだ、冬真だけじゃ無くアレクも側にいろってか?」
そう笑う健人に、
「贅沢を言えば健人さんも一緒がいいです。もちろん健人が一緒にいても良いと言うまでですけれど」
と朱音が真っ直ぐに言う事に、健人の方が驚いた。
それを見ながら冬真は目を細める。
「大丈夫ですよ、健人は朱音さんの兄で、僕たちはアレクも含め家族なんです。
ある意味ずっと一緒だということですね」
だが健人は顔をしかめた。
「じゃあお前が義理の弟になるのかよ」
「よろしくお願いしますね、お義兄さん」
「やめてくれ、マジでやめてくれ」
にっこりと冬真が言うと、健人がうげぇと心底嫌そうな顔をして朱音は笑う。
近くの席に座ったアレクに朱音が声をかける。
「仲が良いよね」
「はい」
未だにダイニングには笑い声が溢れて、温かな色の洋館をより明るい空気が包み込む。
寒さに耐えた洋館の薔薇たちは、暖かくなるにつれ、我先にと葉を茂らせ丸い蕾で一杯になるだろう。
冬真の仕事部屋の金庫には小さな箱に一粒石が大切に保管されている。
その宝石の名はダイヤモンド。
誰もを魅了するその宝石は、渡す者と渡される者を幸せにするために存在している。
その宝石が美しいジュエリーとなり、新たな誓約が二人でなされる日はそう遠くないのかもしれない。
横浜山手のとある洋館には美しい宝石魔術師がいる。
そこには人気のイラストレーターと、黒い執事のような使い魔、そしておそらくこの洋館に長らく住むことになるだろうごく普通の娘も一緒に。
また新たな時間が、この古い洋館で進み始めた。
END
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