act26. 口は災いの元

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「なにその含みある言い方」と彼女は口を尖らせる。でも次の瞬間に、その表情が殊勝なものへと変わる。「でもお父さん。わざわざ来てくれてありがとうね。心配かけて、ごめんなさい……」 「紘花が怖い思いをするとお父さんも怖い。くれぐれも、夜道には気をつけるんだよ。変な男が現れたら迷わず蒔田くんに相談しなさい」 「あ……」蒔田はおそらく、自分が変質者を追い払った話もしたのだろう。それをわかった上で彼女は頷いた。「了解しました……」 「じゃあ、元気でな。紘花。しっかり食べてしっかり寝るんだよ」 「子どもじゃないんだから」言ってから彼女は気づいた。「あ。子どもなのか」 「そうだよ。永遠にね……」改札を見やり、彼は娘に背を向ける。  去り際も。  きざったらしくて品のいい父親だった。 (だからあたしああいうタイプに弱いのか……)  と、知らず、彼女はあのイケメン上司の顔を思い出していた。  元彼氏とは全く違うタイプだけど、清潔感。  品の良さ。  年齢不詳な感じが共通している。二人とも顔が出来上がっているひとだから、十代から四十代と全然顔が変わらない(のだろう)。
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