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トイレに行き、洗面所で鏡を見る。ひどい顔をしている。化粧どころか洗顔も歯磨きすらもしていなかった。
気分はどん底だ。だが自分が落ち込んだところで子どもは返ってこない。
まっ平らなお腹をさする。と、吐き気が喉元をせり上がる。からだの欲求するままに彼女は吐きつづけた。
終わると布団に入った。涙が止まらなかった。苦しくて悲しくて、全身がこころが軋むように痛む。どうしようもできない。嗚咽が漏れる。ごめんね、ごめんねと失った我が子に語りかける。自責の念が、止まらない。
真っ暗な穴蔵に落ち込んで出口が見えない。
そんな彼女を救ったのは、一人の訪問者だった。
何度もドアチャイムが鳴らされる。しつこい新聞の勧誘だろうか。眉を潜めつつ彼女は魚眼レンズを覗いた。
思わぬ人物が立っており、腰を抜かしそうになった。
「いるんだな。入るぞ」彼女のマンションの合鍵を持つ彼は、容赦なく扉を開けた。彼女は腰が引けた。
まだ、彼に事情を話せるほど気持ちの整理がついていない。彼の顔を直視する勇気が持てない。
自分のからだを守るように抱きしめる彼女の前に、彼が、立つと、彼女の顔を見。
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