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なにも言わずに、彼女のことを、抱きしめた。彼女は感情が落ちていくのに、任せた。
彼は、ただ、泣き続ける彼女の髪を撫で、待っていてくれた。
* * *
隣に、彼が居る。
それだけで、真っ暗な海のただなかに明かりが灯ったかのようだった。頼れるひとがここにいる。彼は
なにも聞かずに。買ってきたコンビニのパスタを差し出し、彼女が食べるのを見守ってくれ、そして、隣で寝てくれている。近頃仕事で忙しいらしく。すぐ寝てしまった彼のことを責める気になどなれなかった。
端正な横顔を見あげる。できることなら。
そんな彼の子どもを、ちゃんと、産んであげたかった……。
津波のような悲しみが彼女の喉元をせり上がる。苦しさに胸を押さえるがあふれ出るものを止められない。
「……どうした。紘花。泣いてるのか……」彼が、そんな彼女の様子に気づいた。「ううん、なんでもない」と彼女は首を振るが、漆黒の双眸に見据えられ。
嘘が、つけなくなる。「……駄目、だったの」
彼の瞳が、彼女の続きを待っている。「……五週目だったの。でも助からなく、て……」
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