act63. 結ばれる *

2/8
前へ
/478ページ
次へ
 父が去ったのち、皆に頭を下げる蒔田を見て冷静さを取り戻したのだった。  結局、蒔田の父親は問題発言をしただけで姿を消し、蒔田母子と榎原父子の四人での会食となった。  蒔田の父親の振る舞いの余波を打ち消すように、四人はよく喋った。紘花は自分の育ちのことも話した。最愛の蒔田の親に自ら伝えずに彼と結婚をするのは不誠実だと思ったからだ。蒔田の母は別段嫌な顔をせず、受け入れている様子だった。 「一臣が決めたひとと一緒になるのがなによりよ」と微笑さえして見せた。  蒔田は母親の愛情を受けずに育ったと聞く。しかし、いまの母親の言動は子を想う親そのものだ。そのどこにも不自然さは見当たらずしかし、当の蒔田が『受けられず』育ったというのなら彼の言うことを信じるほかあるまい。ゆえに、かえって紘花の不信感を増長する会食となったのだった。  なお、結婚式は、長男である樹が東京で済ませたゆえ、二人は好きにしていいと二人とも口を揃えて言った。一応は、家族全員で写真を取りたいとは思ったものの新婚旅行とウェディングを外国で済ませてみたいと明かしたところ、「素敵。いいわねえ」と蒔田の母が同意してくれた。
/478ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8179人が本棚に入れています
本棚に追加