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act1. 七月七日、別れ
まさかこの場所を指定されるとは思わなかった。
と、のちに彼女はこの日を振り返る。
七夕が来るたびに思い出すかもしれない、とも。
そこは、初めて彼氏とデートした素敵なカフェだった。壁も床も白木のインテリア、ついでに茶器も白で統一されている外国風の雰囲気の部屋に憧れていた。こういうカフェの近所に住んで、子犬の散歩なんかしたりジョギングしたりするんだって。
そのカフェに入るなり親友の姿を見つけたので、彼女は駆け寄った。
「知奈(ちな)! すっごい偶然だね。……一人?」
「うん、まあ、いまんとこ……」
友人はひとりでカフェに行くタイプではないはずだが。
気まずそうに目を逸らす親友の態度に疑問が浮かびかけたときに、第三の登場人物が現れた。
「紘花(ひろか)。お待たせ」
「ううん。ね、知奈も来てるの」
「ああ、おれが呼んだんだ」
「え? どうして?」
「その、……」
上着を脱いだ彼は、
「ごめんっ!」
カフェじゅうに響く大声とともに、深々と頭を下げた。
最初に謝るなんて、卑怯だよ。
と彼女はのちにこの出来事を、振り返る。
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