菜種梅雨

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「しょーちゃん。私の分は、ちゃんと書いてあるからね! 起きたらすぐ、書くように! 妻としての命令です、しょーちゃん!」  私は婚姻届を元に戻し、ベッドを整え。  絵本で読んだ目覚めのキスを、彼の額へ落とす。 「しょーちゃん。大好き」 「───……」  薄らと、開いた(まぶた)。  さまよっていた視線が、息を飲んだ私を見る。  彼の唇が。  りぃ、と動いた、気がした。  絹糸のような涙が、頬に流れ落ち。  私は(いと)しい彼に抱きつく。  しとしとと、しとしとと。  静かな音に変わった(感涙)が、世界を優しく濡らしていた。
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