月時雨

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月時雨

「しょーちゃん。しょーちゃん」  ソファーに寝転がり、顔に漫画雑誌をかぶせた僕の頬を。  細い指が、ツンツンとつつく。 「しょーちゃん。おなかすいたー。ねー、しょーちゃん」  甘える時に出す、高い声。 「しょーちゃんのいじわる!」  プンッ!という擬音語が、背景に(えが)かれ。  薄桃色より白い頬を膨らませ、そっぽを向いた姿が、目に浮かぶ。 「おむらいすがたべたいなー。おむらいすがたべたいなー。おむらいすがたべたいなー」  おねだりコールは決まって3回。  彼女がパタパタと両足を動かすたびに、僕の頬を、柔らかい髪の毛がくすぐる。 「おーむーらーいーすー!」 「はいはい」  僕は漫画雑誌をどけ、上半身を起こす。  もたれかかっていた彼女の頭が、コロンと僕の太腿に落ちた。
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