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「十秒?たった十秒ですか?」
彼女の発言に思うところは多々あったが、それでも酔いの回った頭ではそんなことは無粋だと思うばかりで彼女の言葉に同意することをまず選び、彼女が”未来視できる”と言う点に関しては否定するのを取りやめた。
だが、それでも仮に彼女が本当に未来視できるのだとしても、見える先はわずか十秒後。
「それならば不意に雨に打たれることをもあるんじゃないですか?」
だから俺は思いついた疑問をそのまま遠慮なく口に出し、相手の反論を待った。彼女は予想外に「ふふっ」と最初に笑い、それは一本取られたことを示すような、戯れの終了を告げる合図のようにも思われた。
しかし彼女はさもあらんといった風に俺の言葉へ頷いたあと、カクテルを一口嗜みそれを手元に置いてから「永遠の十秒先ですから」とそう言った。
「永遠の?それはいったい――」
俺の言葉を予期していたように、彼女は俺の言葉尻に備わる疑問符を待つことなく先手を打って続きを話し出した。
「私は未来の自分を見て行動をしているんです。そこで考えてみてください。では、その十秒後の自分として私に見える私は、はたして何を見て行動をしているのか?と。要約すればこうです、私は常に、十秒後の自分を見て行動している。それは十秒後の私も同じなんです」
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