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薬草と薬を詰めた袋を馬の背に括り付け、シオンは雨の降り続ける森を見上げた。
逆にすっかり軽くなってしまった鞄には、いつもいつも、ひとつだけ渡せなかった物が残っている。
宝石も何もついていない、小さな花の彫り物が散らばるだけの銀の簪。
それはシオンにもう少し勇気が有れば、変わっていたかもしれない未来の証だった。
もし、彼女が故郷に帰る前に、贈ることができていたなら……。
シオンはゆっくりと首を振る。
そして木に繋いであった馬の手綱を解き勢いをつけて背に乗ると、そのまま駆けだした。
雨は、ずっと降り続いている。
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