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見上げた空は雲一つない快晴だった。
しかし、目の前の森はしとしとと雨が降り注ぎ、生い茂る草を、木々の葉を、その雨粒でしとどに濡らしている。ただでさえ鬱蒼とした森だというのに、止むこともない雨が森の奥を見せまいと覆い隠しているようだ。
シオンは乗ってきた馬を近くの木に繋ぎ、落ち着かせるように背中をひと撫でする。少しでも慣れるかと同じ馬に乗って来ているが、やはり本能的な恐怖は消えないのだろう。とはいえ、どうであれ、これ以上馬は使えない。馬の背に乗せてきた鞄を下ろし、シオンは自分の背中に背負った。ずっしりと重かったけれど、「彼女」に喜んで貰えると思えば安いものだ。
森の端の木に吊るされたベルの紐を引っ張り、来訪を告げる。すると、途端に光が差し込み、するすると生い茂っていた木がアーチ状に開け道が現れる。勿論、雨は一粒たりとも落ちてはこない。
いつものことながら見事なものだとシオンは一人ごちながら、そこを慣れた足取りで進んで行った。
雨降るの森の「正式な入口」はこの一ヶ所だけ。他に入口はなく、無理に侵入しようとすれば、降り続ける雨によって命を吸い取られる恐ろしい森だ。
なぜならここは、妖精の魔法によって守られた森。
妖精が捕らえた「彼女」がけして逃げぬように。
妖精に囚われた「彼女」が、誰かから傷付けられぬように。
「あの日」からずっと、この森にだけ雨は降り続いている。
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