星の彼方へ消えたヒーローたちよ

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星の輝きは、はるか彼方の過去の光だ 暗い空間で星空を見るたびに、僕はいつも過ぎ去った時代に空想タイムスリップする 田舎町に住む僕は深夜に誰もいない田んぼ道を歩くのが好きだった それは不思議な空間だった 車も通らないので世界中に僕1人だけになったように思えた そんな時、僕は過去の時代のヒーローたちのことを空想した 今の僕にとっての最大のヒーローは昭和初期に全てを失って放浪の旅に出た俳人・種田山頭火だ 山頭火は昭和2年、僕の住む鳥取県南部町に来たらしい 僕の家のすぐ近くには小松谷川という川沿いに街道があった 山頭火もここを通ったと思われるので、僕は山頭火と心をひとつにしたつもりで歩いた 高校時代の僕の英雄は坂本竜馬だった 家の近くに街道があったことは当時から知っていたので竜馬に憧れるあまり史料を見たわけでもないのに勝手に空想して竜馬が歩いたんじゃないかと思いワクワクした 竜馬を好きになったきっかけは時代劇だった 子どもの頃から水戸黄門、暴れん坊将軍、長七郎江戸日記などの時代劇を好んだ僕は、それに出てくるヒーローたちは本当に正義のために弱い庶民の味方になって戦ったと信じた だがそれは創作だと小学3年生ぐらいには本を読んで気づいていった 失望する僕だったが、本当に時代劇のようなことをしたヒーローはいなかったのか、本をさらに読みこんで探した すると国定忠治という江戸時代後期のヤクザについて「悪代官をこらしめることもあった」と書かれているのを見て、ついにリアルなヒーローを見つけたと歓喜した そんなことが少年時代にあったが、時代劇ヒーローへの夢をいつしか失っていき国定忠治に特に関心を持つこともなくなった そしてだいぶ時が経ちすっかり大人になった現在の僕だが、変遷はしたもののヒーローへの夢はまだ心に抱き続けていた 眠れない夜、星空を見ながら僕は今まで好きになったヒーローたちを思い起こした それは星とともにヒーローたちが夜空から降ってきたかのような感覚だった そしてひさしぶりに国定忠治のことを思い出した
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