接吻

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接吻

 その日は、昼過ぎから雨になった。  晩秋の時雨は冷たさよりも寂しさを感じさせる。  構内のイチョウの明るい黄色が、灰褐色の世界に浮き上がって見えた。ほとんど年中無休、不夜城の理学部だが、週末はやはり人口密度も薄く、蹲った猫のように静かだ。  硬式野球部前主将のKは、歪んだ古い窓ガラス越しにしばらく雨を眺めていたが、そろそろ本来の作業に戻らねばならなかった。
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