接吻

4/5
前へ
/17ページ
次へ
 はっ、  と。  咄嗟に、Kは思わず自分の口を押さえて、ロッカーの影に戻る。声は出ていないはずだが。  物音はしなかったか、気付かれなかっただろうか? 早鐘のような自分の鼓動が通用口まで聞こえてしまいそうで、不安になる。頬も、耳も熱い。  想定外のこととはいえ、デバガメをする予定はなかったのだが。Kは意識して深く呼吸する。  とかく派手な山科がまだ独身で、虚々実々、様々な噂があるのは知っている。その中には性癖についてのものも多いし、今さら相手が男であることに驚いたりはしない。  しないが。  しかし山科の、艶めいた声の余韻と。  ほとんど見えなかった相手の、その時、きっと閉じられていない瞳がすこし、笑っていただろうかと、  気に、なって、  ひどく、羨ましくなってしまった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加